防音・会話保護のABCルール
クリニックやオフィスの会議室などでは、防音対策、特にプライバシー保護や機密情報保持の観点で、会話の音漏れ対策を、ご検討されている方も多いのではないでしょうか?
一般的に、防音対策と呼ばれるものは、
吸音
音漏れの原因である音を抑える。
⇒壁や天井からの音の反射を抑える事で、音が増幅しないようにする。
遮音
隣へ漏れる音をシャットアウトする。
⇒壁・パーティションなどを設置して、漏れる音を遮断する。
の2つに分けることが出来ます。
さらに、会話漏れ対策で考える場合、上記に加え、
サウンドマスキング
漏れて聞こえる音を違う音で聞こえにくくする。
⇒スピーカーを設置して、違う音を流して聞えにくくする。
という方法があります。
これは、先述の吸音・遮音とは異なり、人の聴覚の特性を利用して、生理的に聞こえにくくする方法です。
アメリカでは、会話の情報機密を保護する際、Absorb :吸音、Block :遮断、Cover Up:サウンドマスキングの頭文字を取って、ABCルールと呼ばれています。
そこで、今回は、上記の観点からクリニック・会議室などでの防音、特に会話漏れ対策に関してご案内を致します。
①吸音:Absorb
部屋の中で聞こえる音は、以下の図ように、直接伝わる音と、壁や天井にぶつかって反射して伝わる音に分ける事ができます。
ぶつかって反射する音が大きくなると、結果全体の音も大きくなりますが、このぶつかる音を吸収することで、音の増幅を抑える事ができるのです。吸収しやすいか:増幅しにくいか、吸収しにくいか:増幅しやすいかは、ぶつかる素材によって変わります。
発せられる音そのもの自体が小さくなる事はありませんが、壁や天井の素材を考慮することで、音の増幅を抑え、音漏れの絶対量を抑える事が可能です。
特に、壁と天井の隙間が空いておりそこから音漏れが発生する場合は、漏れる声が大きく聞こえてしまうケースがありますが、こういった時には有効ではないかと思われます。
音が増幅しやすい素材とは?
では、音が増幅しやすい素材とは、どのような素材でしょうか?一般的に、コンクリートや窓ガラス、プラスティックタイルなどの固い素材は、音を殆ど吸収せず、会話が増幅しやすい傾向にあります。
以前ご相談を頂いたオフィスで、床をカーペットからフローリングに変え、また壁1面の窓ガラスを覆っていたカーテンを取り除いたところ、「室内の声が良く響くようになり、隣の会話が大きく聞こえるようになった。」というご相談を受けた事がありますが、これはまさに上記の理由からです。
吸音が効果的な素材は?
吸音の理屈は、入ってきた音のエネルギーを熱に変えることで反射を抑えることです。(といっても素材自体が熱くなる事はありません。念のため。)では、音を吸収しやすい素材というのはどういったものでしょうか?
一般的に良く使われる素材としては、多孔質と呼ばれる、布・グラスウール、スポンジなどのように、小さく細かい穴がたくさん開いている素材が挙げられます。これらは、以下のような吸音材として、各メーカーからも販売されています。吸音材によっては、より会話の音を吸収しやすいものがありますのでチェックをしてみてください。
*写真は、SONEXの吸音材
これらは軽いので、大掛かりな工事をしなくとも後付けで、専用の接着剤などで設置できるので便利です。壁に貼る場合は、全面に貼るのではなく、1面だけでも効果はあります。2面を張る場合は、向かい合っていない面を張ると効果的です。
また、床には毛の長いじゅうたんを敷く、また窓ガラスがある場合はカーテンを、室内にぬいぐるみを置くなどでも、効果がある場合もあります。
上記の素材以外では、有孔ボード(共鳴器型)と呼ばれる、溝や穴のあいた壁や天井など(学校などでよく見かける、昔よく流れていたタイガーのCMでおなじみのあれです。)が挙げられます。これは別途施工工事が必要となるので、後付けではなかなか難しいところがありますが、新規でオープンされる場合は、選択肢の一つとしてご検討されても如何でしょうか?
②遮音:Block
遮音とは、隣の部屋から漏れて聞こえる音を、壁やパーティションなどでシャットアウトする事です。防音対策としては、これが一番イメージしやすいのではないでしょうか?
音漏れが発生しやすいケース
まずは、どのような場所が音漏れしやすいのかをご案内させて頂きます。何処から音が漏れているのかが理解できれば、対策も立てやすくなるのではないでしょうか。
隙間から漏れる
音は空気を伝わって聞こえるので、少しでも隙間があるとそこから音漏れはします。"外の騒音がうるさければ窓を閉める"など、皆様も経験上ご理解いただけるかと思います。
ですので、まず遮音対策として可能であれば、隙間を出来る限り無くすことがポイントになります。(ただし、場合によっては消防法や換気の関係上、難しい場合があるかもしれませんが、、。)
また、いくら遮音とされているパーティションを設置しても、左右や上に大きな隙間があればそこから音が漏れてしまいますので、ご注意ください。
しかし、一見、密室であるのにも関わらず、隣の部屋からに会話が漏れる場合あります。この場合、次の事が原因である可能性があります。
遮音している素材が、軽い場合
良く厚い素材だと音漏れしにくいと思われる方がいらっしゃるかもしれませんが、実は素材の密度:重さが関係してきます。
専門的な話になりますが、音が通過する度合いを求める"質量側"というのがあるのですが、これを元に考えると、コンクリートのような重い素材は漏れにくく、カーテンのような軽い素材は漏れやすくなります。
遮音している素材が、発せられた音に共鳴:振動している場合
形状や材質によって、共鳴:振動しやすい音というのがあります。例えば、昔学校で理科の実験で使った事があるかと思われます"音叉"のように、特定の音に反応して振動し、音を発するというイメージです。
*写真は音叉。音叉をチーンと鳴らすと、もう一つの全く同じ音叉が共鳴して音が鳴ります。
特定の音がぶつかると共鳴をして振動してしまい、その音がまるで漏れて聞こえるようになってしまうのです。この場合は、複数の材質の異なるボードを重ねて回避する事が多いです。
⇒(関連記事)いったい何処から音漏れがしているのか?オフィス・クリニックでの事例4点!
音漏れしやすい場所は?
では、上記を踏まえ、密室空間で音漏れがする場合、どこから漏れているのでしょうか?
代表的なのが、ドアや扉、可動式パーティションなどです。なぜなら、開閉しやすいように、一般的には軽い素材が使われている事が多く、また、隙間が出やすいのも特徴です。(ちなみに音楽レコーディングルームなどの防音を完備した部屋の扉は非常に重く、開閉するのに気合を入れないとなかなか開かないことが多いです)
壁がボード一枚の場合や、ガラス窓がある場合も、そこから抜けやすくなります。
また、意外な盲点で、天井から漏れるという場合もあります。以前ご相談を頂いたオフィスの会議室では、数百万円を使って遮音パーティション(天井の隙間も無くすことが出来るタイプ)を導入されたのですが、実は天井からも漏れるてしまっていた、、というパターンがありました。
効果的な遮音対策について
一般的に、遮音は、先述のように複数の異なった材質のボードを重ね合わせて行われます。重ねることで、1枚だと出来てします張り付けた時の隙間を無くし、また密度:重さも増加できます。そして、ボードとボードの間には、グラスウールなどの吸音材を入れて、間に伝わる音のエネルギーを抑えます。
さらにボードとボードの間の間隔を出来る限り広く取って(専門用語で低音共鳴透過を防ぐ)、ボードを支える柱はそれぞれ独立させて固定することで振動がもう一方のボードに伝わることを防ぎます。
弊社は、遮音工事は行っておりませんが、ご参考程度に(詳しくは、防音を専門で行っている業者様にご相談ください。)
以上、遮音に関してご紹介をさせて頂きましたが、しっかりと音をシャットアウトしようと考えると、それなりの専門的な知識が必要であり、また結構な費用も発生してしまいます。
設計をご依頼された建築会社やインテリアデザイン会社がこの分野に詳しければ良いですが、中途半端に遮音を行うと費用は掛かれど、それほどの効果が期待できない場合もありえます。
弊社では、もう一つの選択肢として、比較的低コストでできるサウンドマスキングをご提案させて頂いております。
ちなみに、弊社にご相談を頂くケースとして、防音対策を行ったが、期待していた効果がなかった場合、または事前に現状の防音効果が十分でない環境であるとわかっている場合が多いです。
③サウンドマスキング:Cover Up
サウンドマスキングの理屈としては、漏れて聞こえる会話の音の周波数と同じ周波数の音を流す事で、生理的に聞こえにくくすることです。これは、人の聴覚の特性を利用したもので、上記の吸音:遮音のように、音を物理的に抑えるという事とは異なります。
⇒(関連記事) 会議室・診療室の音漏れ対策に!音で音を覆い隠すマスキング効果。
⇒(関連記事) サウンドマスキング導入の際の注意事項3点!
過去、アメリカではマスキング用の音源として、ザーというTVの砂嵐のようなホワイトニングを使用していましたが、長時間聴くとストレスとなる事が否めませんでしたが、弊社ではリラクゼーション効果も兼ね備えた環境音楽タイプの音源をご用意しております。
メリットとして
・遮音工事より費用が安い
・工期が短く休日や閉店時間帯で可能、休業をする必要がない
デメリットとして
・音が鳴るので、音量やスピーカーの配置場所をしっかりと調整しないと、同じ部屋内での会話の妨げや、うるさく感じてしまう。
・遮音があまりされていない環境では、それほどの期待ができない。
が、挙げられます。
効果的に発揮するために
また、サウンドマスキングの効果をしっかりと発揮させるためのポイントして、
① 漏れて聞こえる音の方向性と、人の導線を踏まえ、スピーカーの配置場所を考慮する。
② 会話も漏れ具合や室内の環境に応じて、マスキング用の音の音量・音質を調整する。
が挙げられます。そもそも音は波ですので、適当に設置してもマスキング音源は適切には届きません。
以前、ご相談を頂いた企業様で、某マスキング専用の機器を購入されたのですが、設置は自身でやらなければならなく、どの場所にどれくらいの台数が必要かもわからず、結局導入したにも関わらず効果がなかったという事がありました。
ですの、サウンドマスキングを検討されている方は、専門の業者に、環境を調査の上、スピーカー設置と音量・音質の調整を行ってもらった方が良いかと思われます。
ご興味ある方はぜひ、ご相談ください。