無駄になっている店舗BGMの現実
聴覚は、コンサートホールなど、音を聴かせる事を目的とした場所には、 重要視されますが、それ以外の商業空間では、あまり深く考えられていないのではないでしょうか? 店舗デザインやインテリアデザインなど視覚には、力を入れている店舗は多いですが、 聴覚まで積極的に考えている店舗は、まだまだ少ないように思います。
コンサートホールなどと違い、音楽自体を目的で聴く人はいません。 しかしBGMは、米国ロヨラ大学マーケティング学者のミリマン教授が、自身の論文で、 「スーパーマーケットで、ゆったりとしたBGMを流すと、人の行動スピードを下げ、 滞在時間を向上させた。結果早いBGMに比べて、売上が38%向上した」と発表しているように、 人の行動に影響を与える、有効なツールでもあるのです。
でも実際は、BGMを効果的に活用されているどころか、 逆にマイナスになっているケースがただあります。例えば、飲食店・美容院の場合、 お客様が座った座席のBGMがうるさく響き、気持ち良く会話が出来ない環境になっていたり、 反対にBGMより周囲の騒音の方が大きく目立ってしまい、BGM自体が意味を為していない環境になっていたり、
また、小売店では、BGMがシャカシャカと耳に付く場所と、 BGMがあまり聴こえない場所が存在し、お客様のお買いもの気分を下げる原因となってしまっていたりなど。
これらは、来店者の滞在時間や満足度、購買意欲にも関係してくるのではないでしょうか?
音を最適化し、均一に届ける必要性
例えば、人気ファストファッションのフォーエバー21。足を運ばれた方も中にはあるかもしれません。 店内の特徴として、非常にシンプルな作りで、店舗デザインにはあまりお金を掛けていません。 しかし、実は音響には力を入れています。来店者がどこのフロアいても、 心地よいノリの良いテンポのBGMが、音量・音質とも均一に聴こえお買い物の気分を盛り下げる事のないように、 配慮して設計されてあります。
先述のミリマン教授が行ったスーパーマーケットでの実験も、 店内に十分にBGMが届く環境の元に、実験を行った結果なのです。
音響設計とは
そこで、店舗のコンセプトに基づき、限りなく適切な音空間を出す事を目的に音響設計が必要となってきます。音は、そもそも波です。 到達するまでの距離、そして壁や天井からの反射などにより大きく変化します。 つまり、音の伝わり方は、 店舗空間の特性、そして音を受け取るお客様の導線に大きく左右されるのです。
音響設計では、上記を踏まえ、最適な音響機材の選択、 スピーカーの配置場所の設定、スピーカーから出る音質の調整などを行います。
音響設計は、店舗デザイン業者さんや、電気屋さんが行うこともありますが、専門家ではないので、 基本的には音響効果を考えての提案はされません。 単純に予算⇒機材の耐久性とされたり、 またサービス内の片手間で取り付けられるケースが多いです。 当然、音響効果は配慮されず、場合によっては、 音質が悪くなってしまい来店者に不快な印象を与えるケースも多くあります。
通常、店舗デザインには力を入れてお金を掛け、音響は後回しというパターンは多いです。 しかし、店舗デザインにかかるコストと比べ、 音響にかかるコストはわずかなものも事実です。
成熟期を迎えた現代、視覚面だけでなく、聴覚を含んだ5感を踏まえて設計される事は、 今後大きな可能性を秘めていると思います。